第8章 4枚の婚姻状
寝ている仁美の側に寄り、その顔を覗き込んだ。
鬼に怯える事なく眠りについている仁美の顔を見て、天元は少し口元が緩くなる。
しかし、仁美の両手に握られている封筒を見ると、その穏やかな気持ちが吹き飛んだ。
杏寿郎から渡された求婚状。
大切そうに仁美はそれを抱きしめる様に寝ていた。
「……………。」
穏やかだった顔が急に目が座る。
仁美を愛おしく思っていた気持ちに黒い影が現れた。
「……ん……。」
天元が仁美の頬に触れると仁美から静かに声が漏れた。
ピクリと瞼が動いて寝息が止まった。
それが分かっていても天元は仁美の髪を掻き上げて、その髪に指を絡ませて仁美の唇に口付けをした。
「……っんんっ…。」
仁美の唇を割って彼の舌が口内に入ってくる。
寝ている仁美を配慮する気の無い口付けに、仁美は息苦しさから薄っすらと目を開けた。
ちゅっ、と舌が更にからまって、仁美は求婚状を手から放すと、天元の大きな背中に腕を回した。