第8章 4枚の婚姻状
いつも無事を祈りながら隊士達を見送る。
帰ってきてと伝えたのは初めての事だった。
誰かと共に時間を過ごすと言う事はこう言う事なのだと思った。
仁美は今まで藤屋敷で誰かを待っていた事は無い。
天元も義勇も。
実弥さえも仁美は会えれば嬉しかったが、彼らの帰り場所として自分を置いていた事は無かった。
これが夫婦なら、杏寿郎を見送るのが毎日になり。
彼が帰る場所は仁美の元なのだろう。
杏寿郎は仁美にそんな未来を簡単に想像させる人だった。
不思議だ。
出会ったばかりのあの人に普通に幸せな未来を見た。
人としての幸せは、ずっと知っていたはずなのに。
鬼と暮らして中で幸せの形は少しずつ歪になり、あの生活の中ですら幸せだと感じた瞬間があった。
仁美は杏寿郎が残した求婚状を強く握った。
杏寿郎が教えてくれた幸せな未来はとても素晴らしく。
そしてやはり自分には訪れない未来なのだと悲しかった。
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