第8章 4枚の婚姻状
「仁美。俺は君と夫婦になりたいと言っている。仁美とこの先を一緒に過ごしていきたいと考えているんだ。勿論。仁美の過去はしっかりと胸に刻んだ。」
杏寿郎の真っ直ぐな目に、仁美は急に居心地の悪さを感じて目を俯かせた。
「… 仁美。求婚状は渡しておく。任務があるから今からすぐに出て行くが近い内にすぐに戻ってくる。」
杏寿郎はそう言うと仁美の肩を抱いた。
仁美が戸惑っている間に杏寿郎の唇が一瞬仁美の唇に触れた。
杏寿郎が仁美の体を離した時に、彼に名残惜しさは無かった。
笑顔を見せてから背を向けた彼の背中には滅の文字。
「きょっ杏寿郎様!!」
仁美の手の中には、一瞬の口付けの際に渡された一枚の求婚状。
杏寿郎は仁美の声に少し振り返る。
「あの……ご無沙汰で…『帰ってきて』下さい…。」
思わず出た帰ってきて欲しいと言う言葉。
杏寿郎はそんな仁美の顔を見て笑顔で去った。
それは仁美の暗闇さえも照らすほどの光だった。