【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
***
「おいっ、!」
声が勝手に飛び出した。
けれど、彼女は振り返らない。
走る小さな背中が、まっすぐ遠ざかっていく。
黒髪が揺れて、涙のきらめきが残像になった。
(――なんだよ、あれ)
一歩、踏み出そうとして。
そのまま、足が止まる。
追えなかった。
なぜだか、胸の奥が変に重たい。
手を伸ばすことさえ、できなかった。
「……ったく、何なんだよ」
思わず舌打ちしそうになって、ぐっと奥歯を噛んだ。
思い出す。
俯いた顔。
頬をつたった、あの涙。
そして、さっきの言葉――
『そんなこと、私が一番わかってますよ……!』
『先生に……釣り合わないことだって……』
あのの涙が、まだ目の裏に焼き付いて離れない。
「……」
足元に目を落とす。
あいつが走っていった方とは、反対側。
俺の影が、ただ黙って伸びている。
(あいつと出会ってから……なんか、おかしい)
最初は、ただのガキだと思った。
うかつに結界に入り、過去に飛ばされた間抜けなやつ。
まあ、帰れるまでは面倒見てやるか程度だったのに――
(未来の俺の“生徒”で“彼女”なんだってわかって……)
信じられなかった。
最初にそれを聞いたときは、思わず笑いそうになったくらいだ。
……だって、
は正直、俺のタイプじゃない。
見るからに弱そうで、色気もない。
気が強いわけでも、やたら目立つわけでもない。
しかも、どこか抜けてて、すぐオロオロして――
呪術師としても未熟で、すぐ死にそう。
もし同級生だったら、たぶん絶対“好きになるタイプじゃねぇ”って即答してた。
けど、が未来の“俺”の話をするたびに、すっげぇ嬉しそうな顔すんのが……印象に残っている。