【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
五条さんがぴたりと動きを止める。
私は顔を上げられないまま、絞り出すように言葉を続けた。
「そんなこと、私が一番わかってますよ……!」
声が震える。
なのに止められない。
「先生に……釣り合わないことだって……」
一粒の涙が頬をつたって落ちた。
その涙の線に、五条さんの視線が吸い寄せられたのがわかった。
彼の表情がはじめて揺らいだ気がした。
「……あ」
小さく漏れた声。
ほんの一瞬、息を呑む気配。
(……気づかないふりでもしてくれたほうが、まだマシなのに)
頬に残る涙の跡が、やけに冷たい。
私は俯いたまま、震える声で口を開いた。
「五条さんには、もう迷惑かけられないですから」
五条さんが、はっと顔を上げる。
「は?」
「もう……帰って大丈夫です」
「この先は、一人でなんとかします」
自分でも、無理を言ってるのはわかっていた。
でも、ここにいたら、また泣いてしまいそうで――
だから。
「おい、何言って――」
「ありがとうございました」
それだけ言って、私は駆け出した。
古い廊下を踏みしめるたびに、涙が揺れて視界が滲む。
後ろから、五条さんの声が飛んだ。
「おいっ、!」
足が止まりそうになる。
でも――
(振り向いたら、きっと……五条さんの前で大泣きしてしまう)
それだけは、嫌だった。
私はそのまま走り続けた。
五条さんの声も、靴音も、全部背中のほうへ遠ざかっていった。