【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
カサッ。
「――ひゃっ!?」
足元を何かが素早く駆け抜けた。
恐怖と驚きが一気にこみ上げ、気づいたときには――
私は五条さんの腕にしがみついていた。
「っ……い、今、なにか通った……っ!」
見ると、小さなネズミが一匹、埃だらけの壁際へとすばやく逃げ込んでいく。
呪霊じゃなくてよかった――そう思った瞬間、身体の力が一気に抜けていく。
(なんだ、ネズミか……もう……)
ホッとしたのも束の間、ふと自分の手に意識が向いた。
五条さんの腕を、思いきり掴んだままだった。
「っ……あ」
顔を上げると、すぐ目の前に五条さんの顔。
彼は呆れたような、なんとも言えない顔で私を見下ろしていて――
でも、ほんの少しだけ耳が赤くなっていた。
「す、すみませんっ!」
慌てて手を離して、少しだけ距離を取る。
五条さんは気怠そうに片手をポケットに突っ込みながら、
「お前、そんなんで術師やっていけんのかよ」
「……え?」
「呪力じゃない“力”はあるかもしれないけど、お前、体力もなさそうだし、タッパもねぇし、力もねぇし、体術も呪具の扱いも――全部まだまだだろ」
五条さんは悪気があるわけじゃないのかもしれない。
でも、ズバズバと刺さる言葉が並べられていくたびに、心がじりじりと削られていく。
「……お前みたいなの、いてもいなくても同じだろ。やめたら?」
その言葉に、頭の中が真っ白になる。
それは、私が――
先生に言われたくなかった、たったひとことだったから。
(……わかってるよ……そんなこと)
悔しくて、情けなくて、苦しくて。
息を吸おうとしても、喉が詰まってうまく呼吸ができない。
握った手のひらが、汗でじっとりと濡れていた。
涙がにじむ。
見られたくなくて、私は思わず顔を下に向けた。
(でも、それでも――)
(……先生の、隣にいたいから)
ぎゅっと唇を噛んで、涙を必死に堪えようとした。
「……その方が、未来の俺も安心だろ? も危険に晒されないし――」
「五条さんに言われなくても、そんなこと……!」
自分でも、思った以上に大きな声が出ていた。