【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
(……うわ……)
中は思った以上に荒れ果てていた。
床には紙くずや割れたガラスの破片、錆びた鉄屑にゴミ袋の残骸が転がっていて、歩くたびに足元でパリパリと音を立てる。
「いかにも呪霊が好きそうな場所だな」
五条さんは淡々とした口調で答えながら、天井を見上げた。
そこには、やたらと立派なシャンデリアがぶら下がっていた。
だが、その表面には埃と蜘蛛の巣がびっしり張りつき、天井の一部は剥がれかけていた。
美しかったであろう装飾も、今や不気味さしか感じさせない。
私は思わず腕を抱いて身をすくめる。
埃の匂い、カビた空気、軋む床。
あちこちから視線を感じるような錯覚――
寒くもないのに、背中をぞくりと何かが這い上がった。
一歩踏み出すごとに、床板がぎし、ぎし、と悲鳴のような音を上げた。
(……う、怖い……)
脈が早くなっているのがわかる。
私は制服のポケットに手を入れ、いつもの黒縁のメガネをかけた。
メガネをかけると、汚れた壁や散乱する瓦礫の間に微かに灰のような、黒のような、濁った“呪い”が漂っているのが見えた。
呪霊の気配。
このホテルは、完全に“巣”になっている。
(早く……終わらせて、先生と元の世界に戻らなきゃ……)
五条さんを見ると、まるで物見遊山でもしているような軽い足取りで建物の中に進んでいる。
「あ、五条さん、待ってください……っ!」
私は小走りでその背中に追いつく。
軋む床の音にびくびくしながら、ようやく五条さんのすぐ横までたどり着いた。
「……こ、ここに……先生が言ってた呪霊がいるんですか?」
声が自然と小さくなる。
私の問いに、五条さんは足を止めずに答えた。
「ああ。……でも、今は気配がしねぇ。どこかに潜んでるのかもな」
(……ひえ、それ、逆に怖いやつ……)
思わずごくりと唾を飲み込んだ、そのとき――