【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
***
高専の正門を出たところで、五条さんがふいに立ち止まった。
そして、私の首の後ろ――制服の襟をぐいっと掴んだ。
「わっ、なにっ!?」
瞬間、足元がふわりと浮いた。
地面がみるみる遠ざかっていく。
「えっ、浮いて……!? う、浮いてる!?うそ、まってっ」
「うるせー。暴れんなっての。バランス崩れたら落っこちんぞ」
「お、落ちっ……!? きゃっ、こ、こわっ……!」
風がびゅうっと音を立てて、制服の裾がはためいた。
空気が肌をかすめ、屋根の上から見下ろす景色に頭が真っ白になる。
「お前とちんたら歩いてたら、明日になんだよ。俺に合わせろ」
「そ、そんなっ、空飛ぶとか聞いてないし……!た、高い!」
私の抗議も空しく、五条さんはまったく気にする素振りも見せず、建物の屋根を飛びながら移動する。
あっという間に高専の校舎が小さくなり、都内の風景が視界に広がっていく。
ビル群を抜け、川を越え、やがて――
視界の端に、鬱蒼とした木々が広がる暗がりが見えてきた。
しばらくして、五条さんが足を止める。
眼下に広がっていたのは、郊外の一角――
けれど、その中にぽつんと、場違いなほど古びたホテルが建っていた。
「……ここですか?」
そう尋ねると、五条さんは前を見たまま、短く答える。
「ああ。ここから匂うな」
私は思わず息をのんだ。
ホテルの壁には蔦がからみつき、外壁はあちこち崩れかけている。
窓ガラスはひび割れ、鉄の門には赤茶けた錆が浮いていた。
いかにも“出る”雰囲気がぷんぷんしている。
「都内にこんな場所がまだあるんですね……」
小さく呟いた私に、五条さんはちらと横目をよこし、
「バブル崩壊後の成れの果てだろ」
「いいから入るぞ」
そう言って、五条さんが軋む鉄門を片手で押し開ける。
私も続いてホテルの中へ足を踏み入れた。
ぎぃ……と、扉が重たい音を立てて閉じる。
途端に外の空気とはまったく違う、よどんだ空気が肌にまとわりついた。