【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
「……ったく、教室なんかで話してると、誰が聞いてるかわかんねーし……」
「部屋、来い。続きはそっちで」
「えっ――」
戸惑う間もなく、五条さんはそのまま歩き出す。
手首を引かれるかたちで、私は慌ててついていくしかなかった。
歩きながら、そっとその手元に視線を落とす。
思い出したのは、未来の先生に同じように掴まれて、強引に連れていかれたあの夜のこと――。
(上層部から助けてくれたときも……たしか、こんな風に)
ぐいっと強引に引かれて、こっちはついていくしかなくて。
あの時は先生の気持ちがわからなくて。
少し怖かったけど、でも妙に安心できたのを今でも覚えてる。
(……同じだ)
(この感触も、引かれる強さも、手の温度も……)
そこまで考えたところで、ふいに、こみ上げてくるものがあった。
「……ふふ」
気づけば、声が漏れていた。
「は?」
五条さんが振り返る。
眉をひそめて、なんで笑ってんだよ、って顔をしてる。
「……ごめんなさい、なんでもないです」
笑いを抑えながらそう言うと、五条さんはなおも怪訝そうにこちらを見る。
「何だよ、気持ちわりーな」
「……実は、未来でもこうやって先生に手首掴まれて、強引に連れてかれたことあって」
「そのときも、こうやって引っ張られて、こっちは何も言えなくて……」
そう言って、私はもう一度、自分の手首を見つめた。
掴まれたその手が、なんだかあたたかくて、くすぐったくて――
「だから、やっぱり五条さんは先生なんだなって、思って」
すると、五条さんは心底呆れたように、
「何、当たり前なこと言ってんだよ」
ぶつぶつ文句を言いながらも、彼は私の手をぎゅっと、さっきよりも強く握った。
「……いいから行くぞ」
そう言うと、五条さんはさっさと前を向いて歩き出した。
廊下に出ると、教室よりも湿った熱気が肌にまとわりつく。
私はその背中を見つめながら、そっと笑みをこぼした。