【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
静まり返った教室に、蝉の声だけが遠く聞こえる。
(……気まずい)
(なんかもう、すごく気まずい……)
沈黙のまま、ふたりとも言葉を探しているようだった。
「……はあ」
やがて、先生がひとつ深いため息をついた。
「……あの、せんせ――」
「その、“先生”って呼ぶのやめろ」
ぴしゃりと遮られて、言葉が止まる。
「未来じゃそうかもしんねーけど、今は違うだろ。そうやって呼ばれんの、なんか、……ムズムズすんだよ」
ムズムズ、って。
でも、ちょっとだけ照れてるような声だった。
「……じゃあ、どう呼べばいいですか?」
そうたずねると、先生は面倒くさそうに頭をかきながら、
「あ? 苗字でも名前でも、どっちでも」
と、投げやりな口調で返してきた。
(どっちでもって……それがいちばん困るんだけど……)
少しだけ考えて、私は小さく息をのんだ。
「……じゃあ、五条さんで」
そう言うと、先生の眉がぴくりと動いた。
「……は?」
「えっ、だから……五条さん……って……」
「おま、それ絶妙に距離あるだろ!?」
先生が勢いよく言葉を被せてくる。
「なんで苗字呼びなんだよ。名前で呼べよ、名前で」
「えっ……! い、いきなり名前って……無理ですよ」
目の前にいるのは“高専時代の五条先生”。
私が知ってる先生とは全然違う……話し方も雰囲気も。
まだ出会ったばかりだし、しかも、なんかもう、いろいろ強烈すぎて……
でも、私の中では、先生は先生で。
気安く“名前”で呼ぶなんて、なんだか――
畏れ多いというか、くすぐったいというか。
「先生を名前で呼ぶなんて……できません!」
そう言い切ると、先生はなぜか一瞬黙り込んだが、
「……あー、もういいや。五条さんで」
そうぼやくその声は、相変わらず投げやりで、ちょっとだけ――拗ねてるようにも聞こえた。
そして、小さく舌打ちすると、五条さんは私の手首を掴んだ。