【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
「記憶がとびとびで、“死んだはずの父親に会った”とか、“永遠に続く廊下を歩いていた”とか、そんなことばっか言っててさ」
「おそらく――その呪霊が張ってる結界のせいだと思う」
その言葉に、私は息を呑んだ。
(結界……? 行方不明になるほどなんだから、危険なんだよね)
訓練は積んでいる。呪具の扱いにも慣れてきた。
それでも、手足がじわりと緊張で冷えていくのを感じる。
気づけば、机の上の小太刀の柄に指先が触れていた。
静かにそれを握りしめる。
(落ち着いて、ちゃんと動けば対応できる)
(力も発動できるようになったんだし……)
そう言い聞かせようとしても、前回の任務が脳裏をかすめた。
初めて花冠の魔導を発動した、あの港での任務。
呪霊の触手で脇腹をえぐられた時の感覚。
(……っ)
視界の端が、一瞬ぐらりと揺れる。
刺すような痛みと、あのときの血の匂いが蘇る。
(また、同じようになったら……)
そんな不安が、声にならないまま胸の奥で渦巻く。
(……今回は虎杖くんもいるし)
(でも、足を引っぱったら……)
心の中で自身を奮い立たせても、不安は完全には消えなかった。
「――ま、それはさておき!」
先生は両手をパンと打ち鳴らし、ぱっと雰囲気を切り替える。
「は呪具の訓練にもなるし、数多いから悠仁は呪力コントロールの練習にちょうどいいし!」
目隠し越しににこっと笑って、
「とりあえず、二人でちゃちゃっと祓ってきてよ」
「“ちゃちゃっと”って……」
私たちの声が重なったところで、
先生は満足そうに頷き、少しだけ声のトーンを落として続けた。
「――期待してるよ。二人とも」
その一言に、私たちは一瞬だけ息を呑んだ。
不安も恐怖も、まだ確かにある。
でも、先生が見てくれている。信じて、任せてくれている。
(先生の期待に、応えたい――)
私は小さく息を吸い込んで、頷いた。