【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第6章 「しのぶ恋なれ、夏の宵**」
日が落ちてきて、あたりがすこしずつ暗くなりはじめてきた。
車はさらに山道を進んでいく。
運転手さんが脇道に入って、木々の間を抜けていくと、視界が一気に緑一色に染まった。
「――えっ……」
(……うわぁ……全部、竹……?)
たくさんの竹が、空に向かってびっしり伸びてる。
まるで緑のトンネルの中にいるみたい。
「すごいね。竹のトンネルじゃん」
先生も窓の外を見て、感心していた。
その幻想的な竹林を抜けると、茅葺きの大きな門の前で車は静かに止まった。
「着きましたよ。“竹霧の宿”です」
運転手さんにお礼を言って車を降りると、竹林を渡る風がふわりと頬を撫でた。
鼻の奥に残っていた鉄の臭いが、青々とした竹の香りに塗り替えられていく。
「……きもちいい」
笹の葉が風に揺れて、サラサラと音がしている。
まだ夏の熱気は残っているけれど、街中のようなまとわりつく暑さはここにはない。
「五条様、お待ちしておりました」
着物姿の仲居さんたちが、並んでお辞儀をしてくれた。
所作が丁寧で、言葉を交わさなくても、この旅館が“特別な場所”だってことが伝わってくる。
(……こんな高級なところ、私なんかが来ていいのかな)
ちょっと緊張して、先生の袖をつかんでしまった。
先生は私の腰に自然と手を回し、耳元で囁いてきた。
「と温泉来るなら、一番いいとこ泊まりたいと思ってね」
先生は私の旅行カバンをひょいと持ち上げた。
「ほら、行こ」
そう言って、一歩先へ進んでいく。
私はその背中を追いかけ、旅館の玄関へと足を踏み出した。