【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第4章 「咲きて散る、時の花 後編**」
「先生は……?」
小さく囁くように訊ねると、五条さんは私にだけ聞こえる声で答えた。
「ん? ああ、これ以上人に知られるとまずいからって……今は隠れてる」
そのとき。
「では、そろそろ始めましょうか」
術師の落ち着いた声が、空気を割った。
男が一歩前に出ると、全員に緊張が走る。
(……いよいよ、帰るんだ)
戻らなきゃいけないって分かってる。
でも……
夏油さんも、硝子さんのことも。
ここに来てからの不安も、驚きも、涙も、笑ったことも。
五条さんと過ごした、全部が詰まったこの一日も。
(めちゃくちゃで、信じられないくらい濃くて)
(……忘れたくないな)
隣にいる五条さんを見上げる。
すると、彼も視線に気づき、私の手をそっと握った。
「では、楽にしててください」
術師の声とともに、私の体がゆっくりと光に包まれていく。
足元から、透明な波が満ちるように。
少しずつ、少しずつ、現実の気配が遠ざかっていく。
(あ……)
私の手を握る力が、すこしだけ強くなる。
「」
名前を呼ばれて顔を向けると、五条さんが私の唇に静かに口づけた。
触れるだけの、でも確かな熱が残るキスだった。
そっと離れた唇からこぼれた声は、どこまでも優しくて、どこまでも切なくて。
「、忘れても――」
五条さんが何かを言いかけた瞬間、光が一気に強くなった。
視界が真っ白に染まって、すべてが溶けていく。
(……五条さん……)
名前を呼ぶこともできずに、私はその温度だけを胸に残したまま――
意識が、ふっと途切れた。