【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第4章 「咲きて散る、時の花 後編**」
「ここ、空いてるって」
硝子さんがそう言って扉を開けると、
見慣れた間取りに、見覚えのある家具が並ぶ、寮の一室だった。
「はい。タオルと歯ブラシと、あと着替え」
硝子さんが紙袋をポンとベッドに置く。
中には、部屋着っぽいTシャツと短パン、歯ブラシ、フェイスタオル。
「私のだけど……ちゃんには、ちょっと大きいかな。まあ、寝るだけなら平気でしょ」
少し間を置いて、硝子さんが続けた。
「洗濯機と乾燥機は、廊下の突き当たり……あ、ちゃんも住んでるなら知ってるか」
「いえ、色々とありがとうございます」
私は思わず深く頭を下げた。
でも硝子さんは口元だけでふっと笑って、首を横に振った。
「いいって。……あ、例の術師は明日には高専に来てくれるって」
「わかりました」
頷いた私の顔を硝子さんがじっと見て、ふと尋ねた。
「どうかした?」
「……せっかく、みんなと知り合えたのに。なんか、寂しいなって」
自然ととこぼれた言葉。
自分でも、こんな気持ちを言葉にするなんて思っていなかった。
「でも……私とちゃんは、また会えるんでしょ?」
「……それは、そうなんですけど」
「未来に戻ったら、全部“なかったこと”になるんですよね。……今の硝子さんとの会話とかも、全部」
一瞬の沈黙のあと、硝子さんはそっと口を開いた。
「ちゃんって、五条の初恋の相手なんだって?」
「……私も、初めて聞いたんですけど。……そうみたいです」
笑うべきか、照れるべきか、反応に困って俯いた私を見て、
硝子さんはくすっと笑った。
「あいつが本気で人を好きになるなんて、想像つかなかったな」
硝子さんは、ふと視線を窓の方へ向けたまま、静かに言葉を継いだ。
「あんまり“科学的”なこと以外、信じない方なんだけどさ」
「……はい?」
「記憶が消されても、心に刻まれたことって簡単には消えないと思うんだよね」