【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第4章 「咲きて散る、時の花 後編**」
「そもそも過去に来て、未来を変えたくないやつなんていないでしょ?」
「目の前に“もう会えない人”がいる。あの時の失敗をもう一度やり直せる。……思わないわけがないよね」
「呪霊にしては、なかなか考えてるよ」
「感心してる場合じゃないですよ!」
私が声を張ると、隣で黙っていた五条さんが口を開いた。
「でも、呪霊がいなくなったら……“縛り”も消えるはずだろ?」
当然の疑問だった。
縛りが呪霊由来なら、元を祓えば無効になるはず。
だが、先生は肩をすくめるようにして言った。
「そこがよくできてるんだよ」
「え?」
「その縛り……呪霊とじゃなくて、“自分自身”と結ばされてるの」
「だから、呪霊が消えても縛りは切れないってことか」
五条さんが腑に落ちたのか、深く頷いた。
「よくできてるだろ? 欲望を叶えるには、犠牲が必要ってこと」
そう言って、先生はクレープをもうひと口かじった。
サクッと音がして、ブルーベリーの甘い香りがふわりと鼻先をかすめる。
「二人とも、何か“未来を変えた”心当たり、ないの?」
先生が私たちに視線を向けてきた。
沈黙が落ちる。
(……夏油さんのことは、まだ五条さんには話してないから、違うよね)
隣を見ると、五条さんも何か考えてるように見えた。
「……呪霊祓った時に、ホテルを半壊させたことか?」
五条さんが口を開いた。
(確かに。五条さんの術式で半壊っていうより……全壊に近かった気がする)
「それは、関係ないと思うよ」
先生があっさり遮った。
「だってあのホテルの近辺一帯、未来で取り壊されてるから」
「都市再開発で、あの場所はすでに更地だからね。未来が変わったわけじゃない」
ふいに別の疑問が胸をよぎる。
「あ……もしかして」
私は少しだけ言葉をためてから、意を決して口を開いた。