【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
「私、先生のあの顔好きなんです」
言ってから、自分の言葉にはっとなる。
五条さんはじっと黙って、私を見ていた。
(また私、先生のこと勝手に話して……!?)
(五条さん、困ってるじゃん)
一気に恥ずかしさがこみ上げて、慌ててクレープを口に運ぶ。
もぐもぐと口を動かしていると、ふと横から紙の包みをくしゃっと握る音が聞こえた。
「……えっ、もう全部食べたんですか!?」
五条さんはクレープの包み紙を呪力を使って丸めていた。
その手はすでに空で、口元にはわずかにクリームの跡が残っている。
「が遅いだけだろ。 お前も早く食えよ」
五条さんは口の端を指でぬぐって言った。
「焦らせないでくださいよ……」
そう言って、私はあわてて残りのクレープにかぶりつく。
すると、何か言いたげに五条さんがこちらをじっと見ていた。
「……どうかしました?」
「も……顔にクリームついてる」
「え? ど、どこですか?」
指で口元を探りながら顔を上げると、五条さんの顔がすっと近づいてきた。
「……?」
目が合う。
息が止まる。
風が止んだように、空気が静まった。
――次の瞬間。
「……っ、ん……」
唇が重なった。
柔らかくて、あたたかくて。
それでいて、深くて、少し強引で。
全部、奪われてしまうみたいなキスだった。
(うそ……なんで……?)
動揺する私の思考なんて無視するように、五条さんの唇がもう一度、重なる。
さっきより、深く。
少しだけ角度を変えて、熱が舌先に滲む。
「ん……っ……」
心臓の音が耳の奥でやけに響く。
触れるたび、感情ごと飲み込まれそうになる。
そして、唇が離れたとき、
「……あと十一年も待てる気がしない」
そう囁いた五条さんの声は、驚くほど真剣で。
「のことが欲しくなった」
蒼の瞳が射抜くように私を見つめてくる。
でも、その瞳は先生のそれとは違って見えた。
もっと青くて、もっと……
乱暴なくらいに、ただまっすぐに私を欲しがる熱が滲んでて。
再び、唇が近づいてくる。
触れる寸前の、その距離で――
私は目を閉じた。
その熱に、すべてを預けるように。