【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
「……お前、財布持ってきてないって、どういうことだよ」
クレープの甘い香りが漂う中で、五条さんのぼやきが飛んできた。
その声には呆れと怒りが半々で混ざってて、私は思わず肩をしゅんと落とす。
「未来に置いてきてしまってて……」
目をそらしながら答えると、
「結局、俺が払ってんじゃねーか!」
五条さんが両手いっぱいのクレープを抱えたまま、眉をぴくぴくさせていた。
右手にイチゴと塩キャラメル、左手にチョコバナナとシュガーバター。
まるで武装したみたいに両手がクレープで埋まっている。
「私の分も買ってもらっちゃって……ありがとうございます」
そう言うと、五条さんがふっとため息をついた。
「……ったく。後で、未来の俺に請求する」
どこか不満げにぼやきながらも、チョコバナナのクレープを一口かじる。
「うま」
その横顔は、心底幸せそうだった。
私もブルーベリーチーズケーキ味のクレープを一口。
濃厚なチーズと甘酸っぱいソースが舌に広がって、思わず顔がほころぶ。
「おいしい」
思わず小さく呟いた声が聞こえたのか、五条さんがちらりと横目でこっちを見る。
「それもうまそうだな」
そう言って、ぐっと顔を近づけてきた。
「ちょ、ちょっと!? 五条さんっ!?」
がぶり、と勢いよくかじりつく。
「ん、うま。あのクレープ屋、当たりだな」
「人のクレープ、勝手に食べないでくださいよっ」
「そもそも俺が払ってんだろーが」
口をとがらせながら、五条さんはまたクレープをひとかじり。
満足げに頬張る姿を見て、思わず笑ってしまった。
「……ふふっ」
五条さんが怪訝そうにこちらを見る。
「なに笑ってんだよ」
「だって……鼻にクリームついてますよ」
私は自分の鼻を指さすようにして示すと、五条さんは眉を寄せて、
「どこ?」
クレープで塞がれたその手を見て、私はそっと指先で彼の鼻の上のクリームを拭った。
「未来でも先生が同じように、鼻にクリームつけてたことあって」
そのときのことを思い出すと、思わず頬がゆるんだ。
「甘いもの食べてる時の先生の顔って、ほんと幸せそうで……可愛くて」