【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
「グギ……ャアアアアアアアアッ!!!」
断末魔が、突如として耳を裂いた。
奇怪なほどに仰け反った時屍獣の背に、一本の刃が深く突き立っていた。
(……っ!?)
目に飛び込んできたのは――
背後から小太刀を突き立てたの姿。
崩れ落ちそうな身体を、小太刀に預けるようにして、それでも確かに、急所を貫いていた。
時屍獣の背の腕が暴れ、黒い泥が飛び散る。
「――あなたなんかと似てない」
「後悔を喰いものにするあなたと……一緒にしないで!」
その声は震えていた。
けれど、ひと欠片の迷いもなかった。
「あの時、こうしてればって……きっと、これからも何度も思うよ」
「でも……それでも、人は生きるの。後悔を抱えたまま、傷つきながら、それでも前を向いて、生きていくしかないんだよ」
息を震わせながら、は刃に力を込める。
「その後悔をちゃんと背負って、同じ悲しみを繰り返さないようにって」
「私も先生も……そうやって、生きてるの!」
叫ぶように言い放った、その瞬間――
白い花が咲いた。
呪いと腐臭にまみれた戦場に、澄んだ白い花の香りがふわりと漂う。
地面の上、砕けた泥の隙間、倒れた柱の影。
時屍獣の背後から、ひとつ、またひとつと白い花が浮かび上がっていく。
(これが……)
花々は静かに舞い、円を描くようにと時屍獣の周囲を包み込む。
時屍獣の身体から黒く濁った“呪力”がゆっくりと流れ出した。
それは、今までこいつが喰ってきた無数の“後悔”の魂。
の足元で、花弁がゆっくりと昇る。
やがてその流れは、ひとつ、またひとつと昇華されていく。
風に舞う白がそれらをやさしく包み、空へ還していく。
まるで、後悔を後悔のまま終わらせないようにと願うかのように。