【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
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「っ!!」
俺の声が届くより速く、時屍獣の背中の腕がの身体を半分飲み込んでいた。
白い指先が闇に沈んでいく。
間に合わなかった。
くそっ……なんで、気づいた?
さっきまで狙いは俺だったはずだ。
こいつの意識は完全に俺に向いていた。
なのに、急に標的を変えた。
まるで“呼ばれた”みたいに。
……いや、違う。
反応したんだ。
の――あの、白い花に。
一瞬だけ見えた。
闇の中で、ふわっと咲いた白い花。
呪力の濁流の中で、それだけが異質に澄んでた。
あれが……の力か?
花冠の魔導と言っていた。
けど、なんでだ。
いや、今は理由なんてどうでもいい。
の気配が遠ざかっていく。
どんどん薄く、どんどん冷たく。
(……連れてくるべきじゃなかった)
呪力も術式もない。
ろくに実戦経験も積んでない、ただのガキ。
それを分かってたはずなのに。
『あの子の力を、ちゃんと見ればわかるよ』
『僕が惹かれた理由もね』
なんて――
(ふざけんな)
あんな言葉、信じなきゃよかった。
その結果がこれかよ。
俺は奥歯を噛み締め、目の前の呪霊に睨みを向けた。
黒い肉塊。歯車の目玉。
「そんなガキ食って、何がいいんだよ」
足元の地を砕き、一気に間合いを詰める。
気配を断ち、体重を殺し背後から回り込む。
背中から絡みつく腕に捕まれ、の体の半分は泥に沈んでいる。
肩から下はもう黒い膜の中。
意識はない。
(……“蒼”でを引き寄せるか?)
そう考えかけて、すぐに頭の中で却下する。
(だが、わかんねえ)
沈んでる“身体”がどうなってるか。
無理に引き剥がしたら、壊れるかもしれない。
(だったら――)
ごと、祓うか。
ほんの一瞬、そんな選択肢が頭に浮かんだ。
呪術師として生きるってのは、そういうことだ。
誰かを助けようとして、
誰かの声に応えようとして、
その代償に、自分の命を投げる。
そんな場面が、これから何度も、何度も訪れる。