【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第3章 「咲きて散る、時の花 前編」
(いや……やだ!)
心が叫んでいるのに、口からは何も出ない。
唇は震え、声帯は凍りついている。
『会イタク、ナイカ……?』
『両親ニ……失ッタ者タチニ……』
震えた。
全身が凍りついた。
その言葉が、あまりにも――甘かったから。
(……そんなの……)
“戻れたらいい”なんて、何度も、何度も思った。
だけど、それを願うたびに、今の自分を裏切るようで怖くて。
思考がかき乱されていく。
でも、それでも、どこかでほんのわずかに――
(もし、やり直せたら)
そんなことを、考えてしまった自分がいた。
『お前ノ、望む時へ……』
視界が霞み、涙とも汗ともつかぬ液体が頬を伝う。
「会えるの? お父さんとお母さんに……」
私の声は自分のものとは思えないほどかすれていた。
『会ワセテヤロウ……』
波の奥から、時屍獣の歪んだ骸が姿を現した。
顔は半ば溶け、歯車のような眼がこちらを覗く。
『我ト“縛リ”ヲ結ベ……』
『オ前ノ力デ……我ニ永劫ノ悲シミト後悔ヲ捧ゲヨ……』
(縛り……?)
理解するよりも早く、その言葉が私の心のどこかに引っかかった。
“縛り”という響きの中に、奇妙な安心があった。
つながってしまえば、もう一人じゃなくなる。
そう錯覚させる、甘く危険な響き。
『……後悔ハ病ダ……』
『イツマデモ癒エヌ傷……腐リ、膿ミ、己ヲ喰ラウ……』
『ダカラ、我ニ喰ラセロ……』
『オマエハ、モウ苦シマナクテイイ』
それはあまりに残酷で、あまりに優しい
まるで母親のような声だった。
呼吸が浅くなり、意識が霞んでいく。
(……苦しまなくていい)
私は一歩、前に踏み出しかけていた。
その足が水面に沈もうとした、その瞬間――
遠くで、誰かが私の名を呼んだ気がした。
(……今の……声……?)
波の音でも、幻の囁きでもない。
心の奥の、もっと深いところを震わせるような……
そんな“現実”の響き。