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【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──

第3章 「咲きて散る、時の花 前編」


気づけば、私は暗闇の中に立っていた。
どこまでも静かで、どこまでも寒い。
 

(ここは……?)

 
一歩踏み出すたびに、水音がする。
足元を見ると、濡れていた。
それは、波打ち際。
 

(まさか……)

 
思わず息が止まる。
この空気、この匂い、この音。

 
あのときの海だった。
人も街もすべてを呑み込んでいった、黒い波の匂い。
潮と泥と、そして……死の匂い。

 
ざぶん。

 
波が寄せ、引いた。
その次の瞬間、視界の端に“それ”が見えた。
瓦礫の隙間から、どす黒く膨らんだ腕がのぞく。
その先には、顔。脚。首。髪。



「――ッ!!」



次の瞬間、視界の先には海岸線のすべてが死体で埋め尽くされていた。
黒く膨らみ、破れかけた皮膚。
髪に絡まった藻。
腐臭と塩と、鉄のような生臭さが、潮風に乗って鼻を刺す。

 

「やだ……やだやだやだ……っ」

 

思わず足を引く。
けれど、足はもうずぶ濡れだった。
冷たい波がまた一つ寄せてくる。
波の合間から、膨れ上がった白い顔がこちらを見ている。


震える手を見下ろす。
その手は小さかった。

 

「……うそ……」

 

私の体は、あのときに戻っていた。
何もできずに立ち尽くしていた、九歳の自分に。
 

(ちがう、これは幻。わたしは――今は……!)

 
頭ではそう叫んでいるのに、体が凍りついたように動かない。
波の音が遠のく。
代わりに、どこからか――声がした。

 

『オマエノ罪ハ、“生キ残ッタ”コトダロ……?』

「――っ!」



胸がえぐられたように痛んだ。


(やめて……っ)


耳を塞いでも、声は止まらない。



『何モ、デキズ……立チ尽クシ……タダ、泣クコトモ、許サレズ……』

『無力デ……可哀想ナ子供……』

 

ぞわりと背筋を這い上がる感覚に、息が止まる。
冷たい波が足元を洗うたび、あの日の匂いが蘇る。
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