第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
重たい沈黙を連れて、私はその扉の前で足を止めた。
そして、ノックを二つ。
「……入れ」
中から聞こえたのは、機械のように冷たい声。
私は静かに扉を押し、足を踏み入れる。
中は薄暗く、青白いモニターの光だけが静かに部屋を照らしていた。
カタカタカタ……と、神経を削るような音を立てて、
スケプティックはいつものように、膨大な数のウィンドウを前にキーボードを打ち続けている。
そのすぐ傍ら。
──見たことのない男がひとり、黙って立っていた。
黒ずんだマントのような布に、深くフードをかぶったその姿。
口元以外は陰に沈んでいて、目も表情も読めない。
ただ、存在だけが異様に濃く、冷たく、視界に残る。
(……誰?)
一瞬、足が止まりかけた。けれど──私は“いつも通り”の歩調で部屋の中央まで進み、
必要以上に表情を動かさず、問いかける。
『……新たな任務、とのことでしたが』
内心では──まだ、緊張が抜けていない。
“バレた”のだと、あの日からずっと思っていた。
もしかしたらこの部屋で、何かを言われるのではと。
けれどスケプティックは、視線すら寄越さないまま、タイピングの手も止めずに言った。
「そこにいる“ヴォイド”と共に、北の第七エリアを巡回しろ。
ログの食い違いが発生している。
目視確認ののち、再データ取得と最適経路の調整を任せる。──以上だ」
簡潔で、事務的な指示。
私の正体にも、“あの日”にも、いっさい触れようとしない。
(……もしかして、バレてない……?)
少しだけ、肩の力が抜けた。
そのとき。
隣に立っていたフードの男が、すっとこちらに手を差し出してきた。
無言のまま。
人と接触することをまるで当然のように、何の感情も込めずに。
ほんのわずかに戸惑いつつも、私はその手に自分の手を重ねる。
触れた瞬間、ひやりとした感触が肌を走ったが──それだけだった。
目が合った。
フードの奥、光のない双眸と。
その直後。
「……Connect―コネクト―」
掠れるような声で、彼が呟いた。
その瞬間、世界が反転したように──
私の身体が、ピクリとも動かなくなった。