第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
あの日──
荼毘が、私の“名前”を口にした瞬間から。
胸の奥に、ひどく静かなざわめきが、根を張るようになった。
私は、最初から“演じて”ここにいる。
声も、目線も、呼吸すらも。
何もかもを、“カゼヨミ”として組み立ててきた。
──けれど。
あのとき、もう隠しきれないと悟った。
荼毘の視線が、私の奥の奥まで届いた気がして。
私は、自ら“仮面”を外し、本来の姿を晒した。
その場にいた五人は、きっとすべてを理解したはずだった。
だからこそ。
それ以降の“沈黙”が、何より怖かった。
(……報告、行ってないはずがない)
荼毘ひとりの胸のうちで、収まる問題じゃない。
あの視線。あの間。あの空気──
きっともう、他の幹部にも伝わっている。
それでも、何の動きもない。
誰ひとりとして、私に触れようとしない。
(……なにを考えてるの?)
その静けさが、やけに重たくて。
私はこの数日、“答え”の見えない問いを繰り返していた。
──そのときだった。
静かな廊下の先。
コツ、コツ、と乾いた足音が響く。
「……カゼヨミ様」
現れたのは、一人の“戦士”。
「お伝えします。スケプティック様が、至急お呼びです」
「……何の用?」
言葉を落とすように問うと、戦士は一瞬だけ目線を泳がせて、
「……新たな任務を任せたいと。詳しい内容は、そちらで。──では」
言い終えると、彼は一礼し、すぐに背を向けた。
私は、その背を見送るだけで、言葉も動きもなかった。
ただひとつ、肺の奥に詰まっていたものを、
ほんの少しだけ吐き出すように、息をついた。
(……やっぱり、来た)
廊下の奥。
ぴんと張り詰めた空気が、ひとつの扉の向こうで待っている。
そこへ向けて、私は音もなく歩き出す。
──スケプティックの元へ。