第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
扉が、静かに閉じた。
その音だけが、やけに遠く響いた気がして──私は、しばらくその場から動けなかった。
壁に背を預ける。冷たいはずのコンクリートが、どこか痛くて。
『……』
焼けるような視線が、まだ胸に残っていた。
あの目──荼毘の、あの目。
怒りでも、哀しみでもない。
ただ、すべてを諦めたような、乾いた、深い目。
その奥に、消えそうな「痛み」が見えた気がした。
たった一瞬だったけど、確かにそこにあって。
──それすらも、私の思い込みかもしれないのに。
『……私、守るって……言ったのに』
誰も守れてない。
ただ口にしただけで、信じたつもりになって。
何もできないまま、傷を見つめてることしかできなかった。
荼毘も、コンプレスも、ヴィラン連合のみんなも──
……私は、誰ひとり救えていない。
それどころか、
もう潜入がバレた。
これからは敵として、雄英のみんなの前に立つことになる。
味方のふりをして、騙して、利用されて、ただ居場所を濁らせる。
──何がしたかったんだろう、私は。
『……ただ、足を引っ張ってるだけじゃん』
助けたいとか、守りたいとか、そんな綺麗ごと並べたところで。
私は、ただの子供だ。
覚悟の深さも、力の意味も、全然わかってなかった。
手を伸ばせば、届くと思ってた。
気持ちがあれば、通じると思ってた。
──甘かった。
思い上がってた。
そんな自分が、何より悔しかった。
何も言えないまま、視線を落とす。
知らず、指先がぎゅっと拳をつくっていた。
……でも、それ以上はもう、立ち止まっていられなかった。
重たい足を引きずるように、私は歩き出す。
たった数歩先の、自分の部屋へ戻るために。
それだけなのに、世界が少しずつ色を失っていく気がした。
扉の前に立つ。
手を伸ばすのに、やけに時間がかかって──それでも、そっと、扉を開けた。
誰もいない空間。
閉めた扉の向こうに、またひとりきりの静けさが戻ってくる。
ベッドに座り込むと、ふっと呼吸が乱れた。
涙は出ない。けど、心だけが音を立てて崩れていく。
──この胸の痛みごと、明日を迎えるしかないんだ。
私はまだここにいる。
たとえ、どんな形でも。