第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
『……っ』
次の瞬間、彼は私の手を振り払い、
何のためらいもなく、私を突き飛ばした。
背中が壁にぶつかる。
痛みはなかった。けれど、心臓の奥が、軋むように痛んだ。
なぜなら──彼はそのまま、
手を、自分の顔へと伸ばしたから。
『だめ──っ』
私は咄嗟に駆け寄ろうとした。
けれど、その手より早くは、届かなかった。
治ったばかりの皮膚に、炎が宿る。
──彼は、自分で自分を、焼いていた。
『やめて……!お願い、やめてっ!!』
手を伸ばす。止めようとする。
でも彼は振り払った。目を逸らさず、
まるで、罰のように、自分の肌を焼き続ける。
『なんでそんなこと……っ、そんなことしなくていい!』
声が震える。
でも、彼の目は何も映さない。
「来んな」
その一言が、すべてを断ち切った。
痛みも、焦りも、祈りも──届かない。
ただ、空っぽな声が、私を突き放す。
「……出てけ」
彼の背中が、拒絶のすべてだった。
動かない。振り向かない。
まるで“私”の存在ごと、閉じ込めて鍵をかけるみたいに。
『……』
指先が、震えていた。
それでも私は、ただ黙って立ち尽くすしかできなかった。
──この痛みは、私じゃ届かない。
行き場のない手を、そっと下ろす。
何も言えず、何もできず、
私は静かに、部屋をあとにした。
扉が閉まる瞬間、
まだあの目が焼きついていた。
きっと、誰にも見せられない痛みがあった。
それを、誰にも見せたくなかった。
でも私は知ってしまった。
たった一瞬だけ、あの目の奥に、“壊れかけた何か”があったことを──
もう二度と、あの場所には戻れないとしても。