第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
スケプティック・ヴォイドside
冷たい風が吹き抜けたかのように、少女の動きがぴたりと止まった。
身体はまっすぐに立ったまま、まばたき一つせず、微動だにしない。
視線は宙を泳がず、ただ虚ろに前を向いたまま、そこに“在る”。
「……どうだ?」
タイピングを止めたスケプティックが、ちらりとヴォイドを見た。
フードの奥に目を光らせるその男は、わずかに顎を引き、低く答える。
「問題ありません。全制御、完了しています」
「ふん……さすがだな」
スケプティックはわずかに口角を上げると、椅子の背にもたれ、
興味深げに“少女”へと視線を移した。
「さて──」
彼は片手で眼鏡を押し上げ、低く問いかける。
「お前は、誰だ?」
ほんの一瞬の間を置いて。
少女の唇が、何のためらいもなく動いた。
『星野 想花 です』
無機質で感情の抜けた声が、部屋に落ちた。
まるで、読み上げられるだけの“情報”のように。
「想花……」
スケプティックは繰り返し、その名をゆっくりと呟いた。
指先がキーボードを叩く。
その名と、生徒情報、個性、照合情報、全ネットワークを用いて瞬時に検索を走らせる。
数秒後、いくつものデータが画面上に並ぶ。
雄英高校──ヒーロー科一年A組。
仮免取得済。個性:“想願”。……そして。
「……なるほど、な」
パチ、と静かにエンターキーを押す音だけが響いた。
モニターに表示されたのは──
黒髪の少女ではない。銀髪、碧眼の、美しい少女の姿。
本来の、“想花”だった。
「これは……面白くなってきた」
スケプティックの目が細くなる。
その瞳の奥に、得体の知れない興奮と確信が宿っていた。
「完全に“仮面”だったってわけか。──この子は、ずっと、ここで“演じていた”」
彼の言葉に、ヴォイドはただ静かに頷くだけだった。
少女はまだ、身動き一つ取れないまま。
その身体も心も、今──完全に、他者の掌にあった。