第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
彼の言葉に、何かを返そうとした唇が、言葉をなくして止まった。
その言葉の奥にある、痛みとも絶望ともつかないものが──
ただ静かに、私の胸に、沈んでいく。
でも、それ以上に。
「……俺はあいつを殺すためだけに、生きてんだよ」
その声音の方が、何倍も苦しかった。
振り上げるような怒りでもなければ、
燃えるような執念でもなくて。
それは、何も信じられなくなった人間の声だった。
『……誰を?』
それでも私は、尋ねずにはいられなかった。
『……ホークス?』
言ってしまってから、胸の奥が強く軋む。
『それとも……エンデヴァー?』
沈黙。
ほんの一秒の空白。
そして、彼がふっと息を吐く。
「……はっ、あぁ」
自嘲を吐くような笑い声。
「ホークスなんざ、ただの道具だよ」
「“お前”を壊すためのな」
心臓が凍るようだった。
けれど──
その言葉の裏に、あまりにも不器用な“嫉妬”や“願い”が滲んでいることに、私は気づいてしまった。
その瞬間。
『……エンデヴァーが、目的なんだね』
私は、確信に似た言葉を呟いた。
彼はもう、何も言わなかった。
そして私は──
ただ、彼に向かって歩き出していた。
彼が動かないのをいいことに、そっと手を伸ばす。
顔に、焼けただれたその皮膚に、静かに指を這わせる。
そして、ただ願った。
──"傷を癒して"って。
ほんの一瞬だけ。
青白い光が、指先から溶けるように彼の頬を撫でた。
傷が、なかったことになる。
そこには、火傷のない普通の顔が戻っていた。
でもそれは、“過去”を消すためじゃない。
“今ここにいるあなた”を、ちゃんと見たかったから。
そして私は、ただ一言だけ、呟いた。
『……やっぱり』
それが何を意味するのか、誰にも分からない。
けれどその声には、
“拒絶”でも、“否定”でもなく──
まるで、ほんとうの“彼”を見つけたような、静かな確信があった。