第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
『……なんで、黙ってるの?』
自分でも、なんでそんな言葉が出たのか分からなかった。
『怒ってたんじゃないの……?私のこと、許さないって──』
彼は、動かない。
コンクリートの壁が吸い込むような静けさ。
微かに響くのは、どこか遠くで軋む配管の音だけ。
この空間の中に、ふたりきり。
それなのに、まるで世界が、音ごと閉じてしまったみたいだった。
なにも言わないままの彼が、ただ怖くて。
けどそれ以上に、
なにも“感じていないように見える”ことが──どうしようもなく、怖かった。
だから、私は。
気づけば、一歩、近づいていた。
『ねえ……あなた、“荼毘”だよね?』
彼の横顔を見つめながら、そう問いかける。
『なんか、あなたらしくない……』
手を伸ばしていた。
触れたいわけじゃなかった。
確かめたかっただけ。
──本当に、あなたなの?って。
けれど。
その指先に触れるよりも早く、
彼の手が、私の手首を掴んだ。
反射的なものじゃない。
でも、力は入っていない。痛くもない。
ただ、逃がさないように──そう思ったような動きだった。
そして彼は、やっと私を見た。
けれどその目は、氷みたいに冷たくもなければ、炎のように熱くもなかった。
「……お前が、俺の何を知ってんだよ」
低く、乾いた声が、私の胸を裂くように響いた。
怒ってるわけじゃない。
憎しんでるわけでもない。
けれどその言葉の奥にあるものは、あまりに重くて、深くて、寂しくて──
──何も、言えなかった。
その沈黙に、彼がふっと鼻を鳴らす。
「……それとも、あれか?」
視線が、私の奥の奥をえぐるように突き刺さった。
「お前は俺のことも、“救う”ってのか?」
笑ってた。
けどその笑みは、
嘲りでもなく、皮肉でもなく──
まるで、自分自身に問いかけるような、弱さを覆い隠すような……そんな、顔だった。
『……』
私は、何も答えられなかった。
「──やめとけよ」
ぽつりと呟いたその声は、
さっきまでの彼よりもずっと小さくて、
なのに、いちばん痛かった。
「俺はもう、とっくに終わってんだ」
静かに、言葉だけが落ちていく。
まるで、それが真実であるかのように。
まるで、それ以外に何もないかのように──