第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
想花side
──ドアが閉まる音がした。
それだけが、コンクリートの空間に響いた。
『……』
荼毘に手を引かれて、辿り着いたのは彼の部屋だった。
殺風景な空間。剥き出しの壁。薄暗い照明。
それなのに、彼の背中越しに感じた“静けさ”は、不思議と心を騒がせた。
私はてっきり、
もっと乱暴に閉じ込められるのかと思っていた。
痛みを与えられる覚悟だって、していたのに──
背もたれに身を投げかけ、足を投げ出し、まるで──興味を失ったかのように視線を逸らしていた。
『……なにか、するために連れてきたんじゃないの?』
気づいたら、私はそう問いかけていた。
だって、そうでしょ?
これまで何度も彼の視線は、私を壊すみたいに冷たかった。
私を手に入れようとするたび、口にしたのは「壊してやる」「全部いらなくしてやる」、そんな言葉ばかりで。
それなのに、今の彼は……なにもしない。
ただ、そこにいるだけ。
それが──いちばん怖かった。
「……されたかったのかよ、おまえ」
返ってきたのは、あっけらかんとした声だった。
軽く笑いながら、でもその笑いには熱もトゲもなかった。
「ま、そう思うよな。連れてきた理由くらい、察するだろ普通」
『…………』
私は言葉を失った。
その顔を見て、私の知ってる荼毘じゃない、って思った。
怒ってもいない。
喜んでもいない。
──まるで、“期待される荼毘”を演じるのも、もうどうでもいいとでも言うみたいに。
『……あなた、なんか、変だよ』
やっと絞り出したその言葉にも、彼はただ薄く笑っただけだった。
天井を見上げながら、
まるで、そこに誰かがいるかのように──
『さっきまでのあなたの方が、まだ、ちゃんと“怖かった”』
そう言いたくなるくらい、
この“何もない静けさ”は、どうしようもなく不気味だった。
けど。
──ほんとうは。
ほんとうは、気づいてしまっていた。
この空っぽな彼の中に、何かが“壊れてしまった”こと。
私がここにいても、今の彼には──その現実さえ、どこか遠くに見えていること。
それが、なにより、怖かった。