第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
沈黙を破ったのは、トゥワイスだった。
「……でも、あいつ……」
ぽつりと、喉の奥から絞り出すような声。
「今は、荼毘と一緒だよな……」
その瞬間、空気が変わった。
誰もが知っていた。
──荼毘という存在の異質さを。
エンデヴァーへの、焼き尽くすような憎悪。
そして、それと同じか、それ以上に……想花への、異常な執着。
「荼毘ってさ……」
スピナーが低く呟いた。
「……なんか、あの子にだけ妙に執着してたよな。別格っていうか……あれ、もう“呪い”だろ」
誰も笑わなかった。
「“いっぺん全部壊してやりたい”とか、笑いながら言ってました……」
トガの声が震えていた。
「名前も、顔も、心も、なにもかも──“自分の色に染め直してやる”って……」
その言葉が、胸の奥に重く沈む。
──もし、今この瞬間も、
あの子がそんな場所に閉じ込められていたら?
「……次、あの子がここに来たとして」
トゥワイスが呟いた。
「……今までみたいな、あったかい目で、俺らのこと見てくれるかな……」
誰も、答えられなかった。
トガは俯いたまま、唇を噛みしめていた。
スピナーも拳を固く握って、なにかを堪えるように目を伏せた。
──そして。
ぽつり──。
「……逃がすべきだった」
誰の耳にも届かないほど小さな声。
けれど、その声には確かに、深く重い後悔が滲んでいた。
コンプレスは壁にもたれたまま、顔を伏せていた。
その表情は見えない。
だが、俯いた肩越しに漂う沈黙は、誰よりも痛みに満ちていた。
「……俺のことも、守りたいって言ったよな…」
言葉の端に、少しだけ苦笑のような色がにじむ。
だが──その次の言葉は、少しだけ震えていた。
「……彼女の隣が、心地よかったんだ」
拳が、膝の上でゆっくりと握られる。
「でも……荼毘に気づかれる前に…逃がすべきだったんだ」
声が、少しずつ滲んでいく。
「全部わかってたのに……」
誰も、その言葉を否定できなかった。
「それでも俺は、あの子を──
“手放したくない”って思ってしまった」
ぽろりと零れ落ちるように、胸の奥から言葉が漏れる。
その悔いは、誰にも届かなかったかもしれない。
けれど──
その声が静かに落ちたあとも、
彼の中に残る痛みは、確かに他の3人の胸にも、同じ熱で灯っていた。