第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
沈黙を破ったのは、トガヒミコだった。
「……ほんと、ムカつくよね」
苛立ちと悲しみが混ざったような声だった。
「“ヒーロー”って、さ。綺麗事ばっか並べてさ、正義だ平和だって言って……」
その瞳に宿っていたのは、憎しみより、もっと深い虚しさ。
「でも裏じゃ、そんなふうにあの子の身体を弄んでたんですよね? 公安ってやつが。
それって……ヴィランより最低じゃないですか」
彼女の声が震える。
「だから……ヒーローなんか大っ嫌いです」
唇を噛みながら、トガは言葉を吐き出すように続けた。
「だけど……」
その声が、少しだけ和らいだ。
「想花ちゃんだけは、嫌いになれないです……っ」
俯いたまま、肩が小さく揺れていた。
「こんな私のこと、否定しなかった……血が好きって言っても、顔が変わっても、逃げないでいてくれた。
……優しくなんてされちゃったら、忘れられないじゃん……!」
誰も、言葉を返せなかった。
トゥワイスの脳裏に、あの子が見せた涙が蘇る。
自分の過去を語ったとき、静かに、でも確かに涙を流してくれた顔。
スピナーもまた、思い出していた。
“異形”である自分を、まるで当たり前のように見ていた、あのまなざしを。
二人とも、何も言えなくなっていた。
その空気のなかで、コンプレスがゆっくりと口を開く。
「……俺が装置を外したあとも、彼女は公安を恨んだりしなかった」
まっすぐな声だった。
「『私は、これからは守りたい人を守るの』って……そう言って、笑ったよ」
淡々と語るその声には、かすかな熱があった。
「逃げようと思えば、いつだって逃げられたはずなのに……
それでも彼女は、自分の意思でここに残ったんだ。“誰か”を守るために」
一拍、間を置いて。
「……そんな子を、“俺たちを騙してた”ってだけで、拒絶できるか?」
その問いに、答えた者はいなかった。