第5章 交わる唇、揺れる想い
私は台所で、ティーポットにそっとお湯を注いだ。
ぽこぽこと小さく鳴る音が、静かな部屋にやさしく響く。
心を落ち着けたくて、紅茶を選んだのかもしれない。
カップに注ぎながらちらりと後ろを振り返ると、
轟くんはリビングのソファに静かに腰かけていた。
どこか緊張しているようで、けれど――逃げようとはしていない。
そのことが、私にはとても、うれしかった。
『……どうぞ』
カップを差し出すと、轟くんは一度うなずいて受け取る。
湯気の向こうに、彼の横顔がふわりと揺れて見えた。
私はそのまま彼の隣に腰を下ろした。
間に置いたティーテーブル越しに、ほのかに紅茶の香りが漂う。
しばらく、ふたりとも何も言わなかった。
でもその沈黙は、心地よくて。
言葉がなくても、気持ちは伝わるような気がした。
やがて、私はそっと目を閉じる。
深呼吸ひとつ。
そして、静かに――両手を胸の前に重ねた。
『……見せるね。本当の、私を』
小さく囁いて、個性を起動する。
ふわりと、空気が揺れた。
髪が、光を弾くように銀へと変わり、
瞳は静かに、深い青の色を宿していく。
これが“本来の私”。
ずっと隠してきた姿。
けれど今は、見せてもいいと思える。
轟くんは何も言わず、ただその変化を見つめていた。
驚きも、否定も、戸惑いも――どれもなかった。
そのまなざしは、ただまっすぐに、私の中を覗き込むようで。
『……信じられないかもしれないけど、これが私の“本当の個性”』
『想ったことが、現実になる力』
『でもね――なんでもできるわけじゃない。強く願うぶん、体力を削られる』
『命を削ってまで使いたいことじゃなければ、私は……ただの普通の人なの』
そう言ったあと、自分のカップに口をつけた。
ほんのり温かい紅茶が、喉を静かに通っていく。
轟くんは、しばらく黙っていた。
でも、やがて――
「……すごいな」
そうひとことだけ、ぽつりと。