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【ヒロアカ】re:Hero

第5章 交わる唇、揺れる想い


私はカップを持ったまま、そっと彼を見つめた。
轟くんは、テーブルの木目を見つめながら、ゆっくりと言葉を選んでいた。

「……なんで、そんな個性……隠してたんだ?」

その問いに、胸が少しだけ痛んだ。

でも、さっきよりも――ちゃんと答えようって、思えた。

『……こわかったから』

私は視線を落としたまま、正直に続ける。

『この力のせいで、昔……家族を失ったの』

『それがずっと怖くて……誰かに見られるのも、知られるのも。全部が』

静かな夜の中、紅茶の湯気だけがふわりと揺れている。

『でも……轟くんが黙って、話を聞いてくれたから。ちゃんと見てくれたから……少しだけ、怖くなくなった』

言ってから、私は小さく息を吐いた。

そのとき、轟くんがぽつりと呟く。

「……オレもさ」

彼は少し、目を伏せた。

「自分の力、あんまり好きじゃない」

「父親の個性で……その力を使うたびに、思い出すんだ。アイツの顔とか、言葉とか」

苦い声だった。けれど、どこか静かで。

「だから、お前の気持ち……なんとなく、わかる気がした」

私の胸が、少しだけ熱くなる。

『轟くん……』

彼はまっすぐ私を見た。

「オレは、まだちゃんと受け止められてない。だから、前みたいに使いたくないって、今も思ってる」

「でも――それでも、お前の話は、聞けてよかったって思った」

照れでも慰めでもなく、ただまっすぐな言葉。

それが、とても――優しかった。

私は小さく微笑む。

『……うん。話せてよかった』

彼の目に、ほんの少しだけ、影が揺れる。

でもそれでも――ふたりのあいだにあった壁が、ひとつだけ、溶けたような気がした。
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