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【ヒロアカ】re:Hero

第5章 交わる唇、揺れる想い


「……昨日の放課後、見たんだよ」

その言葉を聞いた瞬間、心臓がズキンと跳ねた。

(……え?)

視線を向けると、隣を歩く轟くんの横顔が、月明かりに淡く照らされている。
けれど、私の胸の中はまるで突風が吹き抜けたみたいにざわついていた。

(“見た”って……なにを?)

「……会議室から出てきた女子生徒」

彼の声は落ち着いていた。
でも、私の鼓動は反比例するようにどんどん速くなっていく。

(……やだ、まさか。そんなはず……でも)

「見たこともない髪色してた」

――やっぱり。
呼吸が浅くなる。
一瞬だけ、世界が遠く感じた。

(だめ、だめ……このままじゃ――)

「……そいつが女子トイレに入ってったんだ」

(お願い、やめて)

「……でも次に出てきたのは――」

『……っ』

私は咄嗟に、轟くんの口を手で塞いでいた。

驚いたように見開かれた彼の瞳が、真っ直ぐに私を見ている。

けれど今は、その視線すら刺さるようで。

『……お願い、それ……外じゃ話せないの』

声が震えるのを、どうにか抑えた。
息を吸って、吐いて、ぎゅっと彼の手を取る。

『お願い、ついてきて。ちゃんと話すから』

一瞬だけ間があって――彼は静かに頷いてくれた。

私はそれを確認して、ゆっくりと歩き出す。

冷たい風が頬を撫でる。
でも、彼の手のぬくもりだけが、どうしようもなく現実をつなぎとめてくれていた。

自宅に辿り着き、玄関の扉を閉めた瞬間――ふっと肩の力が抜ける。

外とはまるで違う、静かであたたかい空気。
胸の中に散らばっていた焦りが、少しだけ落ち着いていく。

「……ここなら、大丈夫そうだな」

轟くんの声に、私は小さく頷いた。

廊下を進み、部屋の前で立ち止まる。

ドアノブを回して部屋へと案内すると、彼は一歩踏み入れ、静かに辺りを見渡していた。

あたたかな照明、淡い色のカーテン、机の上に置かれたマグカップ。
他愛もない部屋だけれど、ここだけは――私が“本当の自分”でいられる場所。

私は深く息を吸って、彼の方へ振り返った。

『……ここなら、ちゃんと話せる』

轟くんは優しく微笑んで、まっすぐな瞳で私を見つめていた。
私は小さく唇を噛んでから、ゆっくりと答えようとする。
焦りも、戸惑いも、全部さらけ出す覚悟で。

心の奥でずっとしまい込んでいた“秘密”を――
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