第13章 この手が届くうちに【R18】
パラリ、と書類がめくられる音が部屋に溶ける。
時計の針が進む音すら、今日はやけに重たく感じた。
デスクの上には、連合の残党に関する最新情報。
赤く線が引かれた地図には、いくつもの仮拠点が記されている。
けれど、そこに“彼女”の名前はない。
「……また外れかよ」
掠れた声が落ちる。
疲れた指でペンを置くと、椅子にもたれかかるようにして、目を閉じた。
(何してんだ、俺……ヒーローだろ)
だけど、頭に浮かぶのはあの子の顔ばかりだった。
困ったように笑った時の目。
ホッとした時に揺れる肩。
ふいに向けてくれた「ありがとう」の声。
「……どこにいるんだよ」
そう呟いた、ちょうどその時だった。
背後の空気が、ふと揺れた。
気のせいかとも思った――だが、次の瞬間、気配が変わる。
振り向く。
視線の先、空間がゆっくりと裂けるように開いていた。
ホークスは、反射的に立ち上がっていた。
背に羽根を集める。敵か? 罠か? それとも――
見知らぬ影が、その空間から転がり出てきた。
よろけたその小さな体に、荒く引きちぎれた制服。
髪は乱れ、血と煤にまみれたその顔を、ホークスは見つめた。
見た瞬間、時間が止まった。
「…………想花……?」
掠れた声が漏れる。
信じられない。
でも、信じないわけがない。
その姿を、何度、夢に見たことか。
その後ろから、爆豪、轟、緑谷。
同じく傷ついた仲間たちが姿を現しても、
ホークスの目は、彼女だけを捉えていた。
「……ほんとに、お前……?」
一歩、歩み寄る。
彼女の瞳がゆっくりこちらを向く。
迷いと、痛みと、わずかな光を残して――
『……ホークス……』
その声が、確かに空気を震わせた。
瞬間、ホークスは何も言わずに彼女を抱きしめた。
壊れ物を扱うように、そっと。
でも、決して離さないように、強く。
彼女が震えていたからじゃない。
震えていたのは、自分の方だった。
「……無事で、よかった……」
胸元で小さくそう呟いた声が、静かに部屋に溶けていった。