第13章 この手が届くうちに【R18】
ホークスside
「……了解。東ブロック、制圧完了」
通信を終えたその声は、普段よりも低く、乾いていた。
焦げた匂いが立ちこめる廃ビルの屋上で、
ホークスは無言で空を見上げる。
青空なんて見えやしない。
曇った視界は、目の前の敵ではなく――
もっと遠く、誰かの姿ばかり追っていた。
「……彼女の居場所、まだ掴めないんですか」
仲間のヒーローがぼそりと漏らす。
その一言に、小さく笑って誤魔化した。
「まぁね。気配くらい、どこかに落ちてんだろ」
冗談めかした声。
でもその胸の奥は、張り裂けそうなほど苦しかった。
あの子の“羽根”がないと、
どうにも呼吸が浅くなる。
※
「ホークス、南側にヴィランの逃走ルートあり」
「……わかった。抑えるよ」
羽ばたく。
いつも通り、冷静に、迅速に。
でも、その道すがら、
誰にも気づかれないように
必ず“影”を探していた。
壊れかけた服の布切れ。
焦げた匂いに混じる、微かな香り。
何気ない足跡のひとつ、
どれもが――彼女に繋がっているかもしれない。
※
「……何を見てんだよ、俺は」
ひとつ、羽根が落ちた。
それが風に乗って舞うたびに、思い出す。
あの日の笑顔。
名前を呼ばれたときの、あのくすぐったそうな声。
「生きてるって、証明してくれよ。……頼むからさ」
冗談めいた口調のまま、
でもその目だけは真剣だった。
今もどこかで――あの子は。
その想いを胸に、ホークスは再び翼を広げる。
何十件、何百件の任務をこなしても、
ただ一つの影を、ずっと探し続けていた。