第13章 この手が届くうちに【R18】
その手は、まるで慈愛に満ちているように見えた。
けれど、私は知っている。
それは、奪うための手だ。
壊すための、始まりだ。
『……私の、価値……?』
かすれる声が、喉の奥でつぶやきとなった。
先生はうっすらと笑った。
「そう。君の“個性”はね、願いを叶える力。
ただの回復でも、ただの水でもない……
“強く想ったこと”を、この世界に反映する力だ。
君自身が気づいていないだけで、
それは――神にも等しい可能性なんだよ」
『……っ』
足元が、すうっと冷えていく気がした。
まるで地面が溶けて、心の奥から沈んでいくような。
「君の力があれば、この世界は思うままだ。
崩れゆく社会を、秩序のもとに置き換え、
くだらないヒーローごっこを終わらせられる」
彼の言葉は、一見して理路整然としていた。
正義すら感じるような声色で、真実のように響いてくる。
でも――
でも、私の心は、震えていた。
『……でも、それは、あんたの“願い”でしょ……?』
彼の目が、わずかに細められる。
「違うとは言わない。けれど君は、
“自分が誰かの力になりたい”と思ったことがあるだろう?」
『……あるよ。でも、だからって』
「“君が想った人間”が、爆豪勝己だったのかい?
それとも轟焦凍か?ホークスか……いや、もしかして、相澤か?」
――その名を並べられた瞬間。
胸の奥に火花が散った。
先生の声は穏やかなままだった。
「君が“本当に”望んだことは何だろうね?」
私は、答えられなかった。
痛みで、声が出なかったわけじゃない。
この問いかけの奥に、私自身もまだ知らない“何か”がある気がして、
言葉にできなかった。
そして先生は、静かに言った。
「君の“願い”を、私が叶えてあげるよ」
その言葉に、私ははっきりと気づいた。
この人は、私の願いを叶えたいんじゃない。
自分の願いを、私の力で叶えようとしてるだけだ