第12章 あの日の夜に、心が還る
爆豪、轟side
森を駆ける足音が、ざくざくと静けさを切り裂いていた。
幹をすり抜ける風が、焦げた匂いを運んでくる。胸の奥がざわつく。これは、ただの山火事なんかじゃない。
『……どこだ、想花……どこにいる……!』
焼けた土のにおいに混ざるのは、あの青い火の残り香。
あの瞬間、視界の奥に見えた炎を思い出すたび、喉の奥が焼けそうに熱くなる。
「クソッ……なんで……!」
爆豪が唇を噛み、拳を握る。
火花がにじみ、今にも爆ぜそうなほど熱を帯びていた。
「轟、何か見えたか」
「いや……でも、この先に……何かある気がする」
轟の声には、いつになく焦りが滲んでいた。
その視線の先、まだ深い木々の影に飲まれたままの闇。
――さっきの、マンダレイからのテレパス。
『今回の目的は、かっちゃんと星野さん!』
胸の奥を強く殴られたようなあの瞬間から、彼らの脚は止まらない。
それはもう、判断でも意志でもなかった。
ただ、“守らなきゃ”って、体が叫んでた。
「……っ、誰かいる!」
木々の向こう、影が揺れた。
次の瞬間、爆豪が叫ぶ。
「デク!!」
傷だらけの緑谷が、障子に背負われていた。
血と泥にまみれた顔が、かすかにこちらを向く。
「かっ……ちゃん……! 星野さん、見た……!?」
「見てねぇよ!!」
吐き捨てるように怒鳴った爆豪の声が、逆に焦りを滲ませる。
緑谷の顔が、さらに引きつる。
「まずい……っ、あの子も……狙われてる……!ヴィランが……、突然襲ってきて……!」
「くそッ……!」
常闇の手が震えていた。
「星野は……どこにいるんだ?」
その問いは、誰にも答えられなかった。
けれど、全員の足は自然と、また同じ方向へと向かっていた。
まるで何かに導かれるように、森の奥へ、さらに奥へと。
風が鳴く。木々がざわめく。
遠くで、何かがはじけるような音がした。
――あの子は、まだひとりで戦ってるのかもしれない。
『どうか……無事でいてくれ』
その祈りは、誰の声にも届かない。
でも、たしかに全員の胸に刻まれていた。
夜の森は深く、まだ、何も語ろうとはしなかった。