第12章 あの日の夜に、心が還る
―――合宿2日目
午前中の訓練を終えた頃、背中にうっすらと汗がにじんでいた。
呼吸を整えながら、私は手のひらを見つめる。
淡い碧をまとった光の結晶が、ちいさく、ころんと転がっていた。
『……よし。これで、二十個』
昨日よりもずっとスムーズに、そして確かな実感を持って生み出せた。
一つひとつに、願いをこめたつもり。
「守りたい」という想いが、ちゃんとカタチになってくれた。
私はそっと袋にその結晶たちをおさめて、合宿所の裏手に歩いた。
午後練が始まる少し前──先生が器具の確認をしていくと言っていたのを聞いたから。
案の定、そこには相澤先生の姿があった。
夕方の光に髪が揺れて、影のように静かな背中。
なのに、近づくだけで不思議と気持ちが落ち着くのは、どうしてなんだろう。
『先生』
声をかけると、相澤先生は私を見て、わずかに目元をやわらげた。
『あの、これ──』
私は小さな袋を差し出す。中には、朝から作り続けてきた飴ちゃんが並んでいた。
ひとつひとつ、形も色も少しずつ違うけれど、それも全部、想いの証。
『今日の午前中で、二十個。…まだ効果の安定には時間がかかりそうだけど、疲労回復や、軽い怪我くらいなら対応できると思います』
「……すごいな」
先生の言葉に、胸が少しだけ温かくなった。
「短期間でここまで形にできるのは、なかなかできることじゃない。お前の集中力と意思の力が強い証拠だ」
そう言いながら、先生はそっと袋を受け取ってくれる。
無骨な手のひらにある、小さな光の結晶──その対比が、なんだか胸に残った。
『もし誰かが、ほんとうに苦しそうなときに……それで、少しでも楽になれたらって。』
私の言葉に、先生は一瞬だけ目を伏せ、それから、ふっと笑ったような気がした。
「……分かった。責任もって使わせてもらう。ありがとう」
その一言に、心がほっとゆるんだ。
まだまだ不安も、課題も山積みだけど。
こうして少しずつでも、自分の力が誰かのために「使える」って思えたことが、なにより嬉しかった。
午後の太陽が、すこしだけ眩しく感じた。