第10章 翼の約束
想花side
目が覚めたとき、
窓の外は、まだほんのりと夜の名残を残していた。
重たいまぶたをゆっくり開けると、
いつものホテルの天井が見えた。
シーツの感触も、枕の匂いも、全部知ってるはずなのに──
どこか、いつもと違うような気がして。
『……あれ……』
ほんの少し身体を動かすと、
柔らかい毛布がずり落ちて、ひんやりとした空気が肩に触れた。
その瞬間、ふっと誰かの気配が動いた。
「──起きた?」
低く、落ち着いた声。
顔を向けると、ソファに腰を下ろしたホークスが、
膝に肘を乗せて、こちらを見ていた。
『……ホークス』
「おかえり」
ただ、それだけを言って、彼は少し笑った。
その笑顔が、
どうしてだろう。
胸の奥をじんわりと温かくしてくれる。
『……あたし、どれくらい寝てた……?』
「三時間ちょっと。医務班に診てもらった後、ずっとここで寝てたよ」
『……そっか』
身体を起こすと、
毛布の下に、きちんと畳まれたタオルと、ミネラルウォーターが置いてあった。
彼の気遣いが、あまりにもさりげなくて、
なのに胸に沁みて、思わず視線を伏せた。
「……がんばったな、ウィルフォース」
『ううん、ホークスが……あたしを信じてくれたから』
そう言うと、彼は一瞬だけ言葉を失ったようにまばたきをして、
そのあと、ふっと視線を落とした。
「いや、俺さ……」
『……?』
「マジで、無茶させたなって、ちょっと反省してた。
見てて怖かったんだよ、炎の中にお前が飛び込んでいくの」
『……』
「それでも任せたのは、お前が“できる”って信じてたからだけど……
それが“ヒーロー”に求めるってことなら、俺、ちょっと間違ってたのかもなって」
初めて見た、そんな弱音みたいな彼の表情。
普段あんなに軽くて、あんなに余裕があって、
誰よりも遠くまで飛んでいける人なのに。
『……でもあたし、後悔してないよ。
あそこで飛び込んで、救えた命があるなら、それだけでいい』
彼が少しだけ、息を呑んだ気がした。
「……お前って、ほんと強いよな」
その言葉に、私はかすかに笑って、
持っていた水のボトルを開けてひとくち飲んだ。