第10章 翼の約束
最終日前日。
夕暮れに染まる街を、私はホークス事務所の先輩方と一緒に巡回していた。
今日も特に大きなトラブルはなくて、
穏やかな風と街のざわめきが、どこか名残惜しく感じられていた。
──明日で、この職場体験も終わってしまう。
『……なんだか、早かったな』
小さく呟いて、制服の袖をきゅっと引き直す。
すれ違った子供が私に手を振ってくれて、思わず笑みがこぼれた。
ホークスの事務所は、思っていた以上に“本物”だった。
スピード感も、判断力も、街と向き合う真剣さも、すべてがリアルで。
この数日で、私はたくさんのことを学んだ。
「──ウィルフォース、通信だ!」
突然、先輩の一人が無線を私に差し出す。
胸がきゅっと音を立てたような気がして、急いで受け取る。
『はい、ウィルフォースです』
『……悪い、すぐ来てくれ。君の個性が必要だ』
通信の先から聞こえてきたのは、ホークスのいつもの軽い口調とは違う、
低くて、急いている声だった。
『高層ビルで火災が発生した。上階に逃げ遅れた人が複数いる。
──鎮火にも、誘導にも、君の力が最適だ』
『……わかりました。すぐ向かいます』
言い終わるや否や、私は背中の翼を展開させた。
風をまとって、ビルの名と座標を確認すると、迷いなく飛び立つ。
空を切る風が、さっきまでとはまるで違う感触を持っていた。
胸の奥が、熱くて、ざわざわしてる。
でもそれは、恐怖なんかじゃない。
『……行かなきゃ』
火の中にいる誰かを、私が、助ける。
──“ヒーロー”として。
心の奥で、光がひとつ灯った気がした。
この翼も、この力も、きっとそのためにあるんだって。
私は加速する。
最終日前日、まるで何かに導かれるように──
高く、高く、燃え上がる煙のもとへ。