第10章 翼の約束
想花side
夜の福岡。人通りの少ない路地にぽつんと灯る定食屋。
湯気を立てる味噌汁と、揚げたての唐揚げ。
慣れない任務のあとの体には、この温かさが沁みる。
「……おまえ、今日すごかったな。あの強盗の動き、見切ってたろ」
向かいに座る常闇が、茶碗を置いて、ふと口を開いた。
『え、そ、そうかな? でも、結構ぎりぎりだったよ……』
「ぎりぎりでやれるってのが、本物だ」
照れくさくて、ごはんをかきこむしかできなかった。
けど、常闇の言葉には、ちゃんと真っ直ぐな信頼があった。
「ホークスも、おまえのこと……期待してる。顔に出てる」
『え、顔に出てた?』
「……俺にはわかる」
口数の少ない彼が、ぽつぽつと私のことを褒めてくれるのが、
どうしようもなく嬉しかった。
『……ありがと。今日、一緒に動けて、ほんとによかった』
そう言うと、常闇はふっと目を細めた。
「こっちこそ。……ウィルホース、おまえの光は強い。だから……」
少しだけ間が空いて、彼の声が静かに続いた。
「……いつか、影として守れるように、俺ももっと強くなる」
その一言に、胸がじんわりと熱くなる。
誰よりも自分の力を制御し、冷静に見ている常闇だからこそ。
その言葉が、ただの励ましじゃなくて、本気の誓いに聞こえた。
『うん。私も、もっと頑張るね。……絶対、一緒にヒーローになろう』
彼は一度だけ、こくりとうなずいた。
そして、おかわりを頼むその横顔に、思わず笑ってしまった。
──こんな風に、背中を預けられる“仲間”がいることが、
どれほど心強いかを、私はきっとずっと忘れない。