第10章 翼の約束
荼毘side
薄暗いアジトの片隅。
カタカタとつけっぱなしの小さなテレビが、騒がしい事件現場を映している。
“……ホークスさん、あの少女は新しいサイドキックですか?”
“今はまだ“候補”ってとこかな。──でも、すぐに追いついてくるよ。”
その声に、青い炎がぱち、と小さく揺れた。
「……へぇ」
低く、乾いた笑いが、闇の中で響く。
荼毘はソファに深く沈みながら、片肘をついて画面を見つめていた。
「ずいぶん……嬉しそうじゃねぇか、ホークス」
赤い羽根。軽口。
けれど隣に立つその少女を見つめる視線は、明らかに“それ以上”だった。
「“ウィルホース”……だっけか」
名前を口にする声には、どこか引っかかるような温度があった。
「派手に活躍してんな。……ま、悪くねぇけど」
火傷の残る指が、無意識にポケットの中の小さな端末をなぞる。
そこには、映像データと、断片的な報告──そして“ホークスに近い存在”というメモ。
「お前の目は、節穴じゃねぇんだな。
……けど、選んじまったのがあの子ってんなら」
ふっと、表情が崩れる。笑っていた。けれどその笑みは、まるで罠のように冷たい。
「交渉材料にするには、悪くねぇ」
赤い羽根を掴むには、まず“風の吹く場所”を知ること。
そして、その風が運んでくる匂いに、火を点ければいい。
「……さて、ホークス。お前、どこまで守れるかな」
画面の中で、少女が市民に微笑んだ。
それを見ながら、荼毘の掌に青い火が、じわりと滲む。
「──“ヒーロー”らしいじゃねぇか、あの子。……ますます、燃やしがいがある」
ふっと口角を上げる。
まるで獲物が檻に入るのを、じっと待つ狩人のように。