第10章 翼の約束
事件が収束した現場に、静けさが戻ってきた。
破損した店の前では警察が対応を始め、ホークスは手際よく事情を説明しつつ、羽根で空間を整えていた。
私は少し離れた歩道で、軽く息を整えていた。
まだ胸の奥がすこしだけ高鳴ってる。
でも、それは怖さじゃなくて。
むしろ、ちょっとした“誇らしさ”みたいな感情だった。
その時だった。
「ねぇ、今の見た?光で封じ込めてた子!」
「ホークスの新しいサイドキックか!?」
「え、あんな若い子が!?でもすっごいキレイだった」
「さすがホークス!見る目あるな〜〜!」
通りすがりの人々の声が耳に入ってくる。
『──っ』
思わず顔が熱くなる。
手袋の中で、指先がそわそわと動いた。
「……あんまり見られすぎるのも、困りもんだね」
後ろから、ふっと軽い声が落ちる。
振り返ると、ホークスがポケットに手を入れたまま、私の横に並んでいた。
『えっ……』
「ま、これもウィルフォースの実力ってことでしょ?」
どこか冗談めいた口ぶりだけど、その目は、ほんの少しだけ細められてて。
『……ホークス?』
「いや、ちょっとな。……予想以上で、びっくりしてる」
そう言う彼は、どこか照れたようで、少しだけ寂しそうにも見えた。
『……怒ってる?』
「ん〜……怒ってないけど」
不意に、私の帽子のつばにそっと指を触れて、
「……人気出すぎんなよ?」と、軽く笑う。
『な、なにそれ』
思わず笑うと、彼もふっと目を細めた。
「ま、いいや。とりあえず今日はほんとにお疲れさま。完璧だったよ、ウィルフォース」
『うん……ありがとう』
視線が自然に絡む。
言葉より、胸の奥に広がるあたたかさの方が伝わってくる。
そこへ、カメラを持った報道関係者が近づいてきた。
「ホークスさん、あの女の子は新しいサイドキックですか?」
彼は一瞬だけ私を見てから、いつもの調子で答えた。
「今はまだ“ヒーロー候補”ってとこかな。──でも、すぐに追いついてくるよ」
その声に、胸がふわりと揺れた。
背中に、光を背負ったままの自分。
ヒーローの隣で、確かに誰かを守った“実感”。
──この手で、もっと多くを救えるように。
私はきっと、もっと強くなる。
そしてその隣には、赤い羽根のあの人がいてほしいと、
心のどこかで、願ってしまうのだった。