第10章 翼の約束
ビル群の間を風が駆け抜ける。
赤い羽と、白い光の軌跡が重なって、空を裂いていく。
ホークスと手を繋いだままの飛行は、想像よりずっと安定していて。
けれど心の奥では、何かが高鳴る音が止まらなかった。
「目標は中央通りの宝飾店。3名の武装犯。情報によると“爆破系”の個性持ちがいる」
ホークスの声は冷静で、けれどどこか緊張を含んでいた。
『……了解』
ビルの屋上に着地した瞬間、ふたりの手は自然に離れる。
けれど、目線はしっかりと絡んだまま。
「ツクヨミは南口を回って。ウィルフォース、君は俺と西側から」
『うん』
それだけで、全部が通じ合った。
ガラスの割れる音。
逃げ惑う人々の叫び。
そして、正面から現れた、荒い息を吐く強盗たち。
「ヒーローかよ……来んの早すぎだろ!」
「下がって!」
私の声と同時に、宙に放った光の軌道が、犯人の足元を正確に撃ち抜く。
光のラインが地面に広がり、彼らの動きを封じる。
「なっ──!? 動けねぇ!」
その隙に、ホークスの羽根が疾走する。
音もなく、鋭く、的確に。犯人の手から武器を弾き飛ばしていた。
「スピードじゃ俺の勝ち。光の封じ手は──ウィルフォースの勝ちってとこかな?」
『……ふふっ』
敵の最後の一人が爆破を仕掛けようとした瞬間、
ホークスの羽根が、迷いなく私の前に展開される。
「危ない!」
爆音と、風。
けれどその一瞬の衝撃から守ってくれたのは、あの赤い羽根だった。
『……助けてくれたの?』
「そっちの光の壁で十分だったんだけどね。……ま、癖ってやつ?」
そう言って笑うホークスは、少しだけ、悔しそうな顔をしていた。
自分がつい、必要以上に守ってしまったことを、気づいていたのだろう。
だけど私は、ほんの少しだけ首を横に振る。
『ありがとう。……安心したよ』
その言葉に、彼の笑みがほんの少し、優しくなる。
任務は無事に終了。
空にまだ、夕陽が残る時間。
プロと生徒。
ヒーローとヒーロー候補。
けれど、ひとつの事件を通して確かに通じ合った、ふたりの“信頼”がそこにあった。