第8章 優しい休日
人通りの多い駅前、私はのんびりと歩道沿いをぶらぶら歩いていた。
昨夜の余韻が、まだ身体のどこかに残っている気がして、
心地よい風を感じながら、何気なく空を見上げる。
──そこへ。
「おっ、お前って……A組の、星野だよな?」
声をかけてきたのは、ちょっとガタイのいい男の子。
振り返ると、見覚えのある顔が4つ──B組の生徒たちだった。
「わぁっ!ほんとだ!あの宣誓の子じゃん!あんためっちゃ目立ってたよ〜〜!」
拳藤一佳ちゃん。
明るくて、男前な姉御肌って噂は聞いてたけど、
こうして話しかけられるのは、これが初めてだった。
『あ……あの、えっと、こんにちは。』
「おうおう、なんでそんなにかしこまってんだよ〜、ウチらの打ち上げ、今ちょうど終わったとこだったんだわ。偶然!」
鉄哲くんが豪快に笑いながら、握手でもする勢いで手を差し出してくる。
「いやぁまさか遭遇するとは。ラッキーだな〜これは!なぁ、物間?」
「……ふむ、これも運命かもしれないね? いやはや、A組の“有名人”がまさか一般道を歩いてるとは……油断したな」
「やめとけ物間、それストーカーの理論や」
「失礼な!」
ちょっとだけ翻弄されながらも、
その明るい空気に、不思議と緊張はなかった。
「てかさ〜せっかくだし、少し寄り道してかない?ゲーセンとか行こうよ!」
拳藤ちゃんがぱっと私の手をとって、にかっと笑う。
「今日学校休みでしょ?帰るだけなんてもったいないって!」
『え、でも……私、A組だし……』
「なにそれ、関係なくない?アツい体育祭一緒に戦った仲間でしょ!」
その言葉に、胸がほんの少し、あったかくなった。
「というか〜!キミにはぜひ、我がB組の『真の魅力』を体験してほしいよねっ!」
物間くんが指をびしっと立てて、どこか得意げに言う。
「回原〜チュロス買ってくんない?あたし腹減った〜」
「なんで俺が〜!?てか、チュロスってゲーセンに売ってるっけ?」
わいわいと騒がしいその雰囲気に、自然と笑みがこぼれた。
『……うん、じゃあ……ちょっとだけ。』
「よっしゃ〜〜!決まりっ!じゃ、行くぜ星野!」
拳藤ちゃんが軽く私の背中を押して、
そのまま、B組とのちょっと特別な寄り道が始まった。