第9章 雄英体育祭
ブァアアア――――ン!!
ブザーが鳴った、その瞬間だった。
まるで音を合図に内側のスイッチが切り替わったように――
が、消えた。
緑「えっ…!?」
次の瞬間にはもう、視界の端に彼女の影が迫っていた。
「下、要注意だよ」
ゾクリとした。
彼女の手が床をなぞったかと思えば、リングのセメントが波打つように隆起し、デクの体勢を乱す。
緑(地形操作…!いや、あれは分子再構築…!)
一拍遅れて反応したデクは、持ち前の跳躍力でその場を飛び退いた。だがはもう次の地点にいた。
(……一瞬だけ分子をばらす。この方法は神経系に負担がかかるけど…体を“分解”して、“流れる”。空気の隙間を、霧のように。そうすれば…)
切「な、なんだあの動き……瞬間移動!?」
上「あいつそんなこともできんのかよ!?」
相(いや、分子を一時的に“ばらして”空間を滑らせてる。あいついつの間にそんな技を…)
(目に見えない速さで動ける。ただし、時間はほんの数秒。意識を飛ばせば、命取り。緑谷くんの分析力は本物。こっちの動きに慣れる前に、仕掛ける!)
の戦い方は、「力任せ」ではない。
読む。割る。崩す。そして突く。
セメントスが創った床材の繋ぎ目を狙い、反射的に走る導線と靴底の摩擦係数を計算して、わずかに地面の硬度を変化させ――
そのすべてが、緑谷出久一人のために組み上げられた“罠の迷宮”だった。
緑(動きを見切られてる……!いや、最初から僕の行動パターンが読まれてる!?)
焦りが生まれる。
そして、その一瞬の“揺れ”を――
は逃さなかった。
スパン、と音がして、彼女の足がまるでスケートのように滑り出す。
それは、地面の分子を極限まで滑らせる“摩擦ゼロ”の一撃。
滑るように踏み込んだの膝が、低く抉るように――
デクの腹部を狙った。
緑「っぐ……!」
ギリギリのところで腕をクロスして防御姿勢に移る。
だが、勢いと重みは予想以上だった。
緑(これが…さんの…本気!?)