第29章 「善意の逆理 Ⅱ**」
唇を離すと、透明な糸がまだ僕とがを細く繋いでいた。
虚空を彷徨っていた瞳がわずかに動いて、僕の顔を捉えた。
でも、目の前にいるのが誰なのかはまだわかっていないみたいだけど。
それでも、反応はあった。
の中で暴れていたものが、かすかに揺らぐ。
(……届いてはいる)
中和できたわけじゃない。
でも、間違いではなさそうだ。
ひとまず息をさせようと、少し身体を引こうとすると。
「……ぁ、やっ……」
が、僕の制服をぎゅっと掴んだ。
熱い吐息を漏らしながら、すがりつくように身を乗り出してくる。
虚ろな瞳のまま、僕の唇を探すように顔を近づけてきた。
(欲しがってる……?)
本能的な反応なのかもしれない。
相手が僕だと認識していなくても。
は今、僕から注ぎ込まれるものを強く求めている。
「……そんなに欲しいの、」
返事はない。
ただ苦しげに、僕の服を引く力が強くなるだけだ。
「いい子だね。……もっとあげる」
自分から迎えにいくように唇を塞いで、何度も深く重ねる。
が欲しがるまま、僕の唾液を飲ませた。
氷みたいに冷え切っていた指先に、微かに温もりが戻ってくる。
僕の服を握りしめていた手が徐々に緩み、強張っていた身体の力が抜けていった。
荒かった呼吸も、徐々にだが落ち着きを取り戻している。
(けど……唾液だと効率が悪いな)
これじゃあ、完全に中和するのにどれだけ時間がかかるか分からない。
(僕の血を直接、輸血する?)
いや、ダメだ。
僕とじゃ、血液型が違うし。
他にもっと確実で……いい方法は……。
頭の中で考えを巡らせていると、ふとの腹部に目が留まった。
僕の眼ががそこに滞る違和感を拾う。
(……臍の周りに、呪力が集まってる)