第26章 「愛ほど歪んだ呪いはない」
ブーッ、ブーッ。
机の上のスマホが、短く震えた。
画面を見ると、『家入硝子』の文字が光っている。
(硝子さん……?)
急いで通話ボタンを押して、耳に当てた。
「は、はい! 硝子さん?」
『……ああ、。夜遅くに悪いな。寝てたか?』
電話の向こうから、少し気怠げな声が聞こえる。
「いえ、起きてました。……何か、あったんですか?」
『いや、例の遺体の件でちょっとね』
ふう、と硝子さんが煙草の煙を吐き出すような音が聞こえた。
『前に話してたろ。須和清仁が来るって件。……明日、うちに来ることになった』
その名前を聞いて、私は机の上の本を見つめた。
さっきまで読んでいた、あの本の著者。
「……明日、ですか」
『そう。上層部も結構急かしててさ。明日の午後には医務棟で遺体を見せる予定だ』
『五条はまだ京都だからね。明日、もこっちに来な。一緒に聞いておいて損はないだろ』
「……はい。わかりました」
通話が切れた後も、私はしばらく机の上の本から目を離せなかった。
(須和清仁さん……)
一体、どんな人なんだろう。
こんな難しい本を書くくらいだから、きっとすごく頭のいい人なんだと思う。
明日、その本人が高専に来る。
私なんかが専門家の話を聞いて、どこまでわかるかはわからない。
それでも。
少しでも何かの役に立てるように、せめてこの本くらいは最後まで読んでおきたかった。
(……よし)
小さく気合いを入れて、もう一度、机の上の本に手を伸ばした。