第21章 「可惜夜に眠る 前編」
それからきっかり二時間後。
「っしゃあぁぁぁ!! 終わったぁぁぁ!!」
「肉だ! メロンだ! 海だー!!」
虎杖くんと野薔薇ちゃんの雄叫びが、山にこだました。
あのボロ演習場が、みんなの執念によって、見違えるほどピカピカに磨き上げられていた。
私も雑巾が真っ黒になるまで無心で床や窓をを磨き続け、今はもうクタクタだ。
(訓練より……大変だったかも)
(おかげで、先生のことを考えずに済んだけど……)
「せんせー、掃除終わったよ」
虎杖くんが、縁側にいる先生に声をかける。
視線の先では、先生がアイスを片手にスマホをいじっていた。
「ん、お疲れ!」
そう言って、親指を立てた。
「……あ、あの野郎」
「俺らが埃まみれになってる間に……」
真希さんと伏黒くんのこめかみに、同時に青筋が浮かんだのが見えた。
野薔薇ちゃんは、真っ黒な雑巾を握りしめたまま、ぷるぷる震えている。
みんなの殺気立つ空気なんて気にも留めず、先生は軽やかに立ち上がる。
「みんな優秀優秀。さすが、僕の生徒たち」
「じゃあ約束通り――海、行こっか!」
先生は爽やかに笑うけれど、誰もすぐには動かなかった。
全員、まだ先生への怒りが収まっていないようだ。
張り詰めた沈黙が流れる。
……でも。
「……A5ランクの肉」
「……高級メロン」
誰かがボソッと呟いた、その一言が決定打だった。
「食べてやるわよっ……! 元取るまで食べてやるんだから!」
「……行きますよ。腹は減ってるんで」
野薔薇ちゃんが吐き捨てるように言い、伏黒くんも深いため息をついて歩き出した。
怒りよりも、空腹と海への期待が勝ったらしい。
全員が荷物を抱えて、再びバスへとなだれ込んだ。
さっきまでの疲れなんて、微塵も感じさせないスピードだ。
気づいたときには、私以外の全員がすでにバスへ向かっていた。
「あっ、待って……!」
私も慌てて荷物を抱え直し、その後を追いかけた。